二級ボイラー技士試験「ボイラーの構造に関する知識」について解説しています。
本ページでは、熱及び蒸気について問う問題を取り扱います。
熱に関するキーワードについて
エンタルピ・比エンタルピ
エンタルピ Hとは物体の持つエネルギーのことを表します。具体的には物体の分子や原子の運動エネルギー・相互作用エネルギー等(内部エネルギー U)と圧力が物体の体積に対して行う仕事に関連するエネルギー(圧力 Pと体積 Vに関連するエネルギー)の組合せです 。
式で表すとエンタルピ H [kJ/kg] = U + P × V となります。
それじゃあ比がついたエンタルピってなに?
比エンタルピ hは単位質量当たりのエンタルピのことを示します。
式で表すと比エンタルピ h [kJ/kg] = エンタルピ H [kJ] / 質量 m [kg] となります。
ボイラーの水、蒸気に着目すると、これら1kg当たりの全熱量を比エンタルピとも表現できます。
比体積
体積じゃなくて、比体積?
比体積 vは単位質量当たりの体積のことを示します。
式で表すと比体積 v [kJ/kg] = 体積 V [kJ] / 質量 m [kg] となります。
過熱度
過熱蒸気の温度と、同じ圧力の飽和蒸気の温度との差のことです。例えば、100℃で飽和する水蒸気をさらに加熱して、120℃にした場合、この20℃が過熱度です。
式で表すと 過熱度 = 過熱蒸気 – 飽和蒸気 となります。
これは覚えよう!
飽和水の比エンタルピは、圧力が高くなるほど大きくなる。
一般的に、飽和水の比エンタルピは圧力が高くなると大きくなります。これは、圧力が高くなると飽和蒸気の温度が高くなり、蒸気のエンタルピが増加するからです。
圧力が高くなると、ギューってなって、温度が上がり、エンタルピが増加するってイメージかな?よくわからないよ。
式で表すと以下のようになります。
比エンタルピ h = エンタルピ H / 質量 m です。
一方でエンタルピ H = 内部エネルギー U + 圧力 P × 体積 V であるから、
比エンタルピ h = (内部エネルギー U + 圧力 P × 体積 V) / 質量 m となります。
したがって、一般に圧力 P が大きくなると、比エンタルピ h も大きくなります。
とりあえず、比エンタルピと圧力はともに高めあう関係にあるんだね。
※実際はクラウジウス・クラペイロンの式などが登場してとても複雑です。ざっくりイメージしましょう。
飽和蒸気の比体積は、圧力が高くなるほど小さくなる。
蒸気は一般的に圧力が高くなると比体積が小さくなります。PV = P’V’(ボイルの法則)からも圧力と体積は反比例の関係にあり、圧力が高くなると体積が減少します。
なお、比体積 v [kJ/kg] = 体積 V [kJ] / 質量 m [kg]です。つまり圧力が高くなると比体積が減少します。
※こちらも実際は気体の状態方程式やクラウジウス・クラペイロンの式などを用いて導き出されます。非常に難しいのでざっくりとしたイメージまでにしておきましょう。
飽和水の比体積は、圧力が高くなるほど大きくなる。
水の場合は一般的に圧力が高くなると比体積も大きくなります。
さっきの飽和蒸気と逆で大きくなる?!ややこしいね。
水は圧力をかけると沸点が上昇します。(沸点上昇)
沸点上昇より、水の温度は圧力をかけることで高くなるとも言えます。例えば、大気圧(約1気圧)では水は100°Cで沸騰しますが、圧力鍋のように圧力を上げると、沸点が上昇し、120°C以上で沸騰します。
一方で、水の温度が上がると、一般的には熱膨張して体積が増加します。具体的には、水が温度の上昇に伴って分子の運動が激しくなり、分子間の距離が広がるためです。
したがって、圧力を高くすることにより、水の温度が上昇し、体積が大きくなります。
なお、比体積 v [kJ/kg] = 体積 V [kJ] / 質量 m [kg]です。つまり圧力が高くなると比体積も大きくなります。
飽和水の蒸発熱は、圧力が高くなるほど小さくなり、臨界圧力に達するとゼロになる。
蒸発熱(潜熱)は、液体が蒸発するために必要な熱エネルギーのことです。つまり、飽和水の蒸発熱とは、液体が気体に変わるときに必要なエネルギー量を指します。
圧力を高くすることで、この蒸発熱を小さくすることができます。言い換えると、低い熱エネルギーで蒸発させることができます。
蒸発熱はエネルギーとして基本回収できないものだから、小さいほうがいいよね。圧力をかけて、小さくしてしまおう。
なお、飽和水の蒸発熱は臨界圧力に達するとゼロになります。臨界点では、液体と気体の相の区別がなくなります。液体と気体の間には、液体の表面が存在せず、蒸発の概念も意味を持たなくなります。このため、液体が気体に変わるために必要なエネルギー、すなわち蒸発熱は臨界圧力(臨界点での圧力)に達するとゼロになります。
練習問題
問題:熱及び蒸気について、次の記述は正しいか。⭕または❌で答えてください。答えは▶を押してください。
Q:飽和水の比エンタルピは、圧力が高くなるほど大きくなる。
Q:飽和蒸気の比体積は、圧力が高くなるほど大きくなる。
💡解説:圧力が高くなるほど比体積が大きくなるのは、飽和蒸気ではなく飽和水です。
Q:飽和水の蒸発熱は、圧力が高くなるほど小さくなり、臨界圧力に達するとゼロになる。
過去問で修得
令和5年10月 問1
熱及び蒸気について、適切でないものは次のうちどれか。
- 水の温度は、沸騰を開始してから全部の水が蒸気になるまで一定である。
- 過熱蒸気の温度と、同じ圧力の飽和蒸気の温度との差を過熱度という。
- 飽和水の比エンタルピは、圧力が高くなるほど小さくなる。
- 飽和蒸気の比体積は、圧力が高くなるほど小さくなる。
- 飽和水の蒸発熱は、圧力が高くなるほど小さくなり、臨界圧力に達するとゼロになる。
正解 3
令和4年10月 問1
熱及び蒸気について、誤っているものは次のうちどれか。
- 水、蒸気などの1kg当たりの全熱量を比エンタルピという。
- 水の温度は、沸騰を開始してから全部の水が蒸気になるまで一定である。
- 飽和水の比エンタルピは、圧力が高くなるほど大きくなる。
- 飽和蒸気の比体積は、圧力が高くなるほど大きくなる。
- 飽和水の潜熱は、圧力が高くなるほど小さくなり、臨界圧力に達するとゼロになる。
正解 4
令和4年4月 問1
次の文中の( )内に入れる(A)及び(B)の語句の組合せとして、正しいものは次のうちどれか。
「飽和水の比エンタルピは飽和水1kgの(A)であり、飽和蒸気の比エンタルピはその飽和水の(A)に(B)を加えた値で、単位はkJ/kgである。」
A | B | |
1. | 潜熱 | 顕熱 |
2. | 潜熱 | 蒸発熱 |
3. | 顕熱 | 蒸発熱 |
4. | 蒸発熱 | 潜熱 |
5. | 蒸発熱 | 顕熱 |
正解 3
令和3年4月 問1
次の文中の( )内に入れるAの数値及びBの語句の組合せとして、正しいものはどれか。
「標準大気圧の下で、質量1㎏の水の温度を1K(1℃)だけ高めるために必要な熱量は約(A)kJであるから、水の(B)は約(A)kJ/(㎏・K)である。」
A | B | |
1. | 2257 | 潜熱 |
2. | 420 | 比熱 |
3. | 420 | 潜熱 |
4. | 4.2 | 比熱 |
5. | 4.2 | 顕熱 |
正解 4
平成31年4月 問1
熱及び蒸気について、誤っているものは次のうちどれか。
- 水の温度は、沸騰を開始してから全部の水が蒸気になるまで一定である。
- 乾き飽和蒸気は、乾き度が1の飽和蒸気である。
- 飽和蒸気の比エンタルピは、飽和水の比エンタルピに蒸発熱を加えた値である。
- 飽和蒸気の比体積は、圧力が高くなるほど大きくなる。
- 過熱蒸気の温度と、同じ圧力の飽和蒸気の温度との差を過熱度という。
正解 4